「生きたい」と、他ならぬ本人が願うこと。
「生かしたい」と、家族が願うこと。その願いを叶えるために、医療が、福祉が、そしてそれに携わる人々が、取りうる選択肢を提示し、実行する。そうしたミクロな現場の願いと応答の背後にある、リソースの有限性、そして「自己決定」の困難さ。
答えの出ない問いを前に、それでも私たちは何を考えなければいけないのか。3人の識者と共にこの問いに向き合います。

医療の発展は、患者の「自由」をもたらすのか

医療の発展により、これまで救えなかった命が救えるようになる。不治の病と言われる難病の当事者が、症状が進行しながらもより長く生きられるようになる。「生きたい」と、他ならぬ本人が願うこと。「生かしたい」と、家族が願うこと。その願いを叶えるために、医療が、福祉が、そしてそれに携わる人々が、取りうる選択肢を提示し、実行する。そこにあるのはきっとたくさんの善意なのでしょう。本人が望んだ通りに病気が治り、命が救われるために医療が役に立つなら、それほど喜ばしいことはありません。

ですが、生命に関わる医療行為とその実施判断は、そこまで単純、簡単なものでしょうか。出生前診断の普及は、生まれる前に病気を防ぐ胎児医療の可能性を見せると同時に、我が子に障害があるとわかった親の中絶選択を実質的に後押し、障害のある子どもへのスティグマを維持・増大するリスクを孕みます。

気管切開や人工呼吸器、医療と介護によって生命を維持することが可能でも、痛みや苦しみ、自立機能の喪失を前にして、治療をするかしないかの意思決定は、たとえ本人であっても難しいものです。患者本人の自己決定の尊重が理念として掲げられながらも、家族の介護負担や医療費、経済負担などをちらつかせられた状態で意思決定を迫られる患者に、そもそも「自由」はあるのかなど、自己決定そのものの困難さも指摘されます。

相模原・津久井やまゆり園での事件、元農林水産事務次官による息子殺傷事件などの痛ましい事件。事件を起こした本人だけでなくその後の人々の言説からも、「迷惑をかけてはならない」「役に立てないなら生きていく価値がない」という優生主義への揺り戻しのリスクが強まっているように思います。

人が生きる、生存するということはどういうことなのか、それを誰が決めるのか。歴史に立ち返り、改めて私たちが拠って立つべき倫理基盤を見つめ直す必要があります。

「生きる」を誰が決めるのか

病気や障害、人が「生きる」ことに関するさまざまな決定と、どのように向き合えば良いのか。第8回のOPEN LABは生命倫理をテーマに3人のゲストをお招きします。

1人目のゲストは立命館大学大学院先端総合学術研究科教授の立岩真也さん。社会学者として、筋ジストロフィーやALSなど、重度障害のある方への聞き取り調査を通した研究を長く続けてきました。自己決定や生存権について考察した著書を多く執筆、障害当事者を取り巻く社会環境が「善意の集合体」によって温存されてきた構造についても指摘しています。

2人目のゲストは川口有美子さん。ALSの患者家族と在宅ケアにたずさわる人たちのピアサポート団体、NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会の運営や、在宅人工呼吸療法のための介護サービスの提供、ALS当事者の日常を描いたノンフィクション作品の執筆など幅広く活動しています。ALSをはじめとする難病当事者の「自己決定」についても、生命倫理の観点からその課題について提言を行っています。

3人目のゲストは林伸彦さん。出生前診断が普及すると障害のある子が生まれにくくなり、より暮らしにくい社会になってしまうかもしれないという懸念の一方、出生前診断を避けると治療によって防げるはずの障害や救える命を見逃してしまうというジレンマに課題意識を持ち、「NPO法人親子の未来を支える会」を設立しました。出生前診断の意義、胎児医療の倫理観、社会への働きかけ、障がいへの関わりについて、多面的かつ組織的な働きかけに取り組んでいます。

歴史を振り返りながら、現代、そして未来に向けて、倫理という名の道標を見出したいと思います。

立岩真也

立岩真也

立命館大学大学院先端総合学術研究科教授

1960年、佐渡島生。専攻は社会学。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。千葉大学、信州大学医療技術短期大学部を経て現在立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。単著として『私的所有論』(勁草書房、1997、第2版生活書院、2013)、『弱くある自由へ――自己決定・介護・生死の技術』(青土社、2000)、『自由の平等――簡単で別な姿の世界』(岩波書店、2004)、『ALS――不動の身体と息する機械』(医学書院、2004)、『希望について』(青土社、2006)『良い死』(筑摩書房、2008)、『唯の生』(筑摩書房、2009)、『人間の条件――そんなものない』(イースト・プレス、2010、第2版新曜社、2018)、『造反有理――精神医療現代史へ』(青土社、2013)、『自閉症連続体の時代』(みすず書房、2014)、『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』(青土社、2015)、『生死の語り行い・2』(Kyoto Books、2017)、『不如意の身体――病障害とある社会』(青土社、2018)、『病者障害者の戦後――生政治史点描』(青土社、2018)

立岩真也(TATEIWA Shin’ya) arsvi.com

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2018年の2冊、刊行記念セール arsvi.com


林伸彦

林伸彦

NPO法人親子の未来を支える会代表理事 The Fetal Medicine Foundation Japan 代表

東京大学で分子生物学を学んだのち、千葉大学で医学を学ぶ。出生前診断が普及すると障がいを持つ子が生まれなくなり、より暮らしにくい社会になってしまうかもしれない、という懸念を抱く。同時に、出生前診断を避けると、治療によって防げるはずの障がいや救える命を見逃してしまうというジレンマに課題意識を持つ。出生前診断の意義、胎児医療の倫理観、社会への働きかけ、障がいへの関わりについて、多面的かつ組織的に働きかける必要があると考え、「NPO法人親子の未来を支える会」を設立。胎児医療のインフラ構築を目的にThe Fetal Medicine Foundation Japanも設立。

NPO法人 親子の未来を支える会 fab-support.org

ゆりかご yurikago.fab-support.com

The Fetal Medicine Foundationfetalmedicine.org

@npo_fab twitter

親子の未来を支える会 NPO for Family and Baby Wellness facebook


川口有美子

川口有美子

NPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会 副理事長

1962年東京生まれ。1995年に母親がALSを発症。95年12月から07年9月に自宅で看取るまで母親の在宅介護を行った。家族介護の負担軽減を目指して2003年4月有限会社ケアサポートモモを設立し、ALS等の重度障害者に対応できるヘルパーの養成と派遣を開始した。2004年5月、練馬区在住のALS患者、橋本操とNPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会を設立。喀痰吸引と経管栄養を研修課程に入れた『進化する介護』を全国展開し、医療的ケアの法制化を導いた。 2010年5月ALSの治療選択を巡る家族の葛藤をつづった『逝かない身体』(医学書院)で第41回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。2013年2月立命館大学大学院先端総合学術研究科博士課程修了。2014年1月博士論文(改稿)「生存の技法 ALSの人工呼吸療法をめぐる葛藤」で河上肇賞奨励賞受賞。2018年日本生命倫理学会理事就任。講談社の現代新書カフェで連載中。

さくら会 sakura-kai.net

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みんなで決める終末期?患者と医師と人工呼吸器と gendai.ismedia.jp


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講義概要

2020年2月12日(水)
19:30〜22:00 (19:00開場)

〒153-0051 東京都目黒区上目黒2-1-1 中目黒GTタワー16F
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